「夏の終わり」
夏休み最後の日。
部活に行こうと家を出ると、藤真に会った。
「おはよう、一志」
藤真はこちらに気がついて、声をかける。
「今日は早く行かないのか?」
監督業を兼務している藤真は、朝の練習が始まる三十分前には学校へ行っている。
故に、家が隣でも朝会うことは滅多になかった。
「ああ。たまには、な」
藤真はオレの質問に答えてから、晴れ渡る空を見上げた。
「もう、夏も終わるんだな」
「ああ」
上を見たまま言う藤真に、相槌を打つ。
空にはもう、入道雲の気配はない。
改めて、夏は終わったのだと実感する。
「陵南は仙道がキャプテンになったらしい」
「そうか」
「湘北は宮城」
他の学校のことは気にするな、と言っている藤真が、珍しくそんな話をする。
「翔陽が一番早かった。選抜は、勝つ」
オレはそう言って、もう一度空を見上げる。
藤真は少し間を置いてから、呟いた。
「そうだな。選抜で……」
『最後』。
だが、藤真はそこで言葉を止める。
オレも、言わなかった。
しばらくオレ達は何も言わずに歩いた。
朝早いせいで、かなり人通りが少ない。
学校に着くと、ちょうど玄関に花形がいた。
「うす」
朝の挨拶を交わして、体育館に向かう。
花形はオレ達の空気に気がついたのか、ポツリと呟いた。
「終わり良ければ全て良し」
オレと藤真は立ち止まり、顔を見合わせた。
「だろ?」
花形が、いつもの笑みを浮かべる。
誰もいない体育館は静かで、外からはセミの声。
「そうだな」
藤真が頷きながら言う。
オレも無言で相槌を打った。
季節は、もう秋。
――END――
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