「ふんぬー!」
「黙れ、どあほう」
「彩子さんの受難」
まーたやってる。全くもう。
「こらこら、やめなさいって」
体育館にハリセンの音が鳴り響いた。
「リョータが来ないってわかった途端、これなんだから。三井先輩も止めて下さいよ」
後輩たちと黙々とパス練習をしている三井先輩に声をかけた。
「あ? ほっとけって。いつものことじゃねーかよ」
こちらを見ずに答える。
はー、やれやれ。全く。先輩まで適当なんだから。
赤木先輩と木暮先輩が引退してから、数ヶ月が過ぎた。
リョータは新キャプテンとして良くやっているし、
新しいマネージャーも入って、部活内は華やいだ。
ただ一つの悩みの種がこれ。
湘北名物、意地の張り合い。
桜木花道がリハビリから帰って来てからというもの、
2人がケンカしなかった日は1日もなかった。
もっぱら、原因は流川が参加していた全日本の合宿のこと。
「オレの代わりに選ばれたくせに!」
「実力だ」
ちょっと目を離すと、すぐこれ。
「何であんなに合わないのかしら……」
「いや、以外に似てるぜ、あの2人」
気がつくと、三井先輩がスポーツドリンクを飲んでいた。
「あれ? もう休憩時間スか?」
時計を確認する。
その時、入口から晴子ちゃんが入って来るのが見えた。
「差し入れでーす」
両手にビニール袋を抱えている。
「遅れてごめんなさい、彩子さん。これ作ってたら遅くなっちゃって」
中には、たくさんのおにぎりが入っていた。
いかにも、晴子ちゃんらしい。
「すごい。これ、全部作ったの?」
「はい」
……アタシにゃマネできないわ。
「みんなー、好きなの持ってきなー。早いモノ勝ちよー!」
おにぎりはあっという間になくなる。
「ちょっと、流川! 桜木花道! 晴子ちゃんからの差し入れ、なくなるよー!」
「あ、晴子さん!」
「…………」
桜木花道は、嬉しそうに振り返る。
流川は相変わらず、何考えてんだか。
「ほら、あと2つしかないじゃない」
「こっちがおかかで、こっちがサケ」
晴子ちゃんがおにぎりを指差して説明する。
流川と桜木花道は、2つのおにぎりを見比べて、同時に手を出した。
「オレはサケ」
「…………」
その2本の手は、1つのおにぎりを掴んでいる。
「オレのだ」
「オレが先だった」
全く、もう。
「ほらな、似てるだろ」
すでに2つもたいらげた三井先輩が言う。
「……本当、そっくり」
アタシは、深いため息をついた。
結局、晴子ちゃんの一声で桜木花道がおかかを(自分から)食べることになり、一件落着。
梅干のおにぎりをほおばりながら、1番の課題は全国制覇よりも、
この2人なのかもしれないと、ふと思った。
――END――
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