限られた時間。
限られた場所で。
自分が出来ることを――精一杯。



「Just Do It」



「今日も終わったぜ!」
今日の部活後の掃除当番は、オレ達3年生。
他に誰もいなくなった体育館でモップ掛けをしていると、
三井が気持ち良さそうに伸びをした。

「そんなに嬉しいか? 一日終わるのが」
そんな質問をすると、三井に睨まれた。
「……うっせーな、お前は嬉しくねぇのか? 木暮」
逆に質問を返されて、ちょっと悔しかったりする。

「……難しい質問だなぁ」
笑いながら、曖昧に答える。
すると、体育館倉庫から赤木が戻ってきた。


「何してんだお前等。手が止まってるぞ」
立ち止まっていたオレと三井に、赤木の口から真っ先に出た言葉。
予想通りだな、と思いつつ、笑う。

「いや三井がさ、一日終わるのが嬉しいとか言うからさ」
「あ? 木暮テメェ、オレのせいだって言いたいのか?」
三井を見ないようにして、続ける。

「赤木はどう思う?」
不思議そうな顔の赤木に、尋ねる。

「日によって違うな」
「あ?」
答えた赤木に不満そうな声を出したのは、三井だ。

「嬉しい日もあれば、そうじゃない日もあるってことだ」
不満そうな三井に向かって、赤木が答えた。
「なるほどなぁ」
そういうものかもしれないと思って、オレは頷く。
本当は、毎日嬉しく思えたら良いんだろうけど。


「オレは毎日嬉しいぜ。明日のために今日があんだろ?」
三井の言葉に、とても驚いた。
同じく驚いた様子の赤木と、顔を見合わせてしまう。

「どうしたんだ……三井」
「……熱でもあるんじゃないのか?」
本当に三井らしくない言葉で、思わず目を疑ってしまう。

「な、何だよテメェ等! ブッ殺すぞ!」
やっぱり、その剣幕がいつもの三井で、安心した。
「大体、木暮はどうなんだよ木暮は!」
三井はオレを指さす。
すぐ人を指さすのは、三井の悪い癖だと思う。

「どうなんだ、木暮?」
赤木までオレに詰め寄ってくる。
確かに、オレは答えてなかったけど……。


「オレは……とりあえず、後悔はしたくないな」
嬉しいと思えるような一日を、過ごせたらいいと思う。
「限られた時間と、場所の中でさ」


たった、3年間。
今出来ることを、出来る限りやっていきたい。
3年間が過ぎて、良い3年だったって、心から思えるように。


「……木暮らしいな」
赤木の感想。
「……だな」
三井も同じような感想らしかった。


「そうか?」
思ったことを言っただけなんだけどな。


「で赤木。今日はどうだったんだ?」
もう外は暗い。
日によって違うと答えた赤木に、尋ねてみた。


「……まぁ、マシな方だな」
そう言って、少し笑う赤木。
オレも、同じ気持ちだった。


「精一杯やるしかねぇだろ、一日一日」
三井がぽつりと呟く。
「……お前に言われても説得力ゼロだ、三井」
――赤木のその一言に、ものすごく嫌な予感がする。

「……何だとテメェ、このゴリラ!!」
「本当の事だぞ」
――やっぱり、こうなるのか。

「ああ〜もう、やめろよ2人とも!!」
喧嘩を始めた2人を、なだめながら。
明日も、一日が終わって嬉しいと思えるように、過ごしたい。


限られた時間と、場所の中で。
このメンバーで、バスケをしながら。



――END――




Back