どこにでも、要領の良いやつはいるわけで。



『越野くんの受難』



「またかよ。絶対、明日中には返せよ」
部活を終え更衣室で着替えをしていると、仙道が話しかけてきた。
何でも、科学のノートを貸して欲しいらしい。

「悪ィ、越野」
先日、数学のノートを返してもらったばかりだった。

「オマエ、ノートとってないの?」
「んー……とったりとらなかったり」
どっちだよ。

「そのわりに頭良いんだよな、オマエ」
オレがノートを手渡しながら言うと、仙道は少し困った顔をした。
「眠くなるんだよな」

……相変わらず会話かみ合ってないんですけど。
それはさっきのノートとってないのか、に対する答えだ……多分。

「だからって、寝たらだめだろ」
「うーん、秋だからなァ」
睡眠の秋、ってか。

「越野は?」
でた。端折りすぎな質問。普通、『越野は眠くならないのか?』だろ。

「残念ながら、授業中寝れるほど頭良くないんだよ」
オレが意地悪く返すと、仙道は受け取ったノートを入れた鞄を肩にかけた。

「真面目だなァ。あ、アメ食うか?」
……こいつに嫌味は通じないんだった。



次の日。
弁当を食べ終えてふと廊下を見ると、仙道が立っていた。

「何してんだ?」
「ノート」
どうやら、昨日借りたノートを返しに来たらしい。

「おう。……もう写したのか?」
「昨日、徹夜で」
大きな欠伸をしながら、仙道が言う。

「もしかして、今日の授業全部寝てたんじゃねーだろーな」
「……」
仙道は、斜め上を見たまま黙り込んだ。

全く……。

色々な言葉が頭を飛び交ったが、何も言わないことにした。



……どこにでも、要領が良いんだか悪いんだかわからないやつはいるわけで。



――END――




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