「三井は告白したことあるか?」

木暮の突然の台詞に、三井は飲んでいた牛乳を吹き出しそうになった。
「……ごほごほ……なんだよ、いきなり?」
喉につまらせたのだろう、思い切りむせてから、三井はいつもの口調で尋ねる。

「オレはあるぞ、メガネくん」
横から桜木が口を挟んだ。
「全部フラれてんだもんな、オマエは」
三井は桜木のほうを見て、からかうように言った。

「なにー! じゃあ、ミッチーはどうなんだよ!」
桜木がかみつくように言い放つ。
「オレ様は、見ての通りモテモテだからよ。フラれたことなんかねーぜ」
自慢気に言う三井に、木暮が聞いた。

「じゃあ、告白したことはあるんだ」
「……あ? まーな」
三井は再び牛乳を飲んだ。

「この間までフリョーだったクセに」
口を尖らせて言う桜木。
「ああ? 関係ねーだろ!」
「まあまあまあ」
一触即発、の事態に、2人の間に座っていた木暮が割って入る。



「言えなかった言葉たち」



よく晴れた、とある日曜日。

湘北高校バスケ部員は、昼食をとるために30分の休憩中だった。
3人は体育館の裏口の階段に座っている。

「相談されちゃってさ。クラスメイトなんだけど」
木暮はそう言って、右手に持っていたおにぎりを頬張った。
「相談?」
サンドイッチを食べながら、三井が聞く。

「ああ。なかなか告白できないらしくてさ。
オレに相談してもムダだって言ったんだけど……」
「オマエ、モテなさそうだもんなぁ」
三井が気の毒そうに木暮を見る。

「うわ、ひでー」
木暮はそう言って笑い、図星だけどさ、とつけ足した。
「そうか。それでこの天才に聞いてきたわけだね、メガネくん」
桜木はおにぎりとパンを両手に持っている。
もちろん近所の店からツケで購入してきたものだ。

「はは、そうそう。オレは告白したほうが良いって言ったんだけどな。
幼馴染で全然そういう雰囲気にならないんだって」
「ふむふむ」
落ち着きのある木暮とはウラハラに、桜木はガツガツとパンをたいらげた。

「そういうのはズバッと言わねーとな。ズバッと」
「ああ! 今オレが言おうと思ったことを!」
「やっぱりそうだよな。言うべきだよなぁ」
三人が話していると、後ろから声がした。

「それが、言えねーんすよ……」

驚いて、振り返る3人。
そこには宮城が立っていた。今にも泣き出しそうな顔をしている。
「言えたら苦労しないっすよ」
「りょーちん……」
桜木が悲しそうな目で、宮城を見た。

「言わないと伝わらねーだろ」
そんな2人に冷たい視線を送ってから、三井が言う。
「三井サンにはわかんねーすよ。今の関係が壊れるんじゃないかって思ったら……」
「りょーちん……」
涙ぐむ宮城を見上げたまま、桜木が呟いた。

「ワカル」



「……ったく。何だ? あの2人は」
固い友情で結ばれている宮城と桜木は、
マネージャーのアヤコに呼ばれて、体育館の中に入っていった。

「うーん。そうかぁ。そういうもんなのかなぁ」
木暮が青い空を見ながら、言う。
「ただ、意気地がねーだけだろ」
「うーん。そうかもしれないけどさ……」

三井はサンドイッチを食べて、立ち上がった。
「言いたくても、言えないことってけっこうあるもんな」
「そーかぁ?」
「はは、そうだよ」
木暮も、空のペットボトルを持って腰を上げる。

「優等生だもんな」
意地悪く、三井は木暮を見てニヤリと笑った。
「優等生って……。あるだろ、三井もさ。『バスケが恋人だ』とかさ」

「うわっ、さむっ!」
「え? 寒くはないだろ。夏だし」
「……オマエ、マジで言ってんのか?」


歩きながら、木暮は思う。
『バスケをしていて良かった』とか、『湘北に入れて良かった』とか。
そう考えるときに、込み上げてくるこの嬉しさは、

とても言葉にはできない、と。



――END――




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