「足音」
静かな体育館に、足音が響く。
私は耳をすまして、その音を確かめた。
誰かが体育館に入って来たようだ。
「おはよー、リョータ」
彩子さんはモップがけをしながら、入り口のほうは見ずに言う。
顔を上げて挨拶すると、確かに宮城さんがこちらに歩いて来る。
私は驚いて、彩子さんのほうを見た。
「足音でわかるんですか?」
「わかるわよー。結構性格出るのよね、足音って」
「……すごい」
関心していると、また足音が聞こえてきた。
入り口の近くにいると、どうしても気になってしまう。
次は誰だろう。
「おはようー。桜木花道」
この音は桜木くんだったんだ。
「おはようございます。晴子さん、彩子さん」
私が挨拶すると、桜木くんはすたすたとゴール下へ。
「やっぱりすごいです、彩子さん。私、全然わかりません」
「そのうち、イヤでもわかるようになるって」
彩子さんはそう言って笑う。
と、三人目の足音が聞こえてきた。
この音は……。
「おはよう、流川くん」
私はついモップがけの手を止めてしまっていた。
「……おはよー、流川」
彩子さんが、ワンテンポ遅れて、挨拶する。
「うす」
流川くんは何も気づかずにコートの中へ。
彩子さんが、こちらを見てニヤリと笑う。
「ね、わかるでしょ」
私は、顔が赤くなるのを感じた。
「……はい」
仕方なく、頷く。
彩子さんは私の肩をばしばしと叩いた。
「好きな人のことってなんでもわかるのよねー」
……その通り。
早く、皆の足音も聞き分けられるようにならなきゃ。
私は止めていたモップがけの手を再び動かした。
……足音までは消せなかったけれど。
――END――
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