「桜木くん」
「は、晴子さん!」


「インディゴ」


ある日曜日。
晴子はコンビニに来ていた。
母に頼まれた、限定販売のプリンを買うためだった。

「お昼買いに来たの?」
桜木はカゴの中にいくつもの弁当を入れている。
「はい。晴子さんは?」
「お母さんに頼まれたの。ここのコンビニだけで売ってるプリン」

晴子が手に持っていたプリンを桜木の目の前にかざす。
左手に二つ、右手に一つ。
それは色とりどりのフルーツが乗っていて、とても美味しそうに見える。
ダイエット中の晴子も、心揺れるくらいだ。

「お母さんと私とお兄ちゃんの分なの」
「ゴ、ゴリも食べるんですか?」
桜木が目を見開く。

「うん。お兄ちゃん、甘い物好きだから」
「そういえば、前にちらっと聞いたような……」
桜木はカゴをかけたままの腕を組んだ。

「美味しいんスか、それ」
「うん。すっごく美味しい」
嬉しそうに笑う晴子に、桜木が照れた。

「桜木くん、まっすぐ家に帰る?」
「はい」
「途中まで一緒に行かない?」

「……!」
桜木は晴子の思わぬ誘いに、顔を赤くしたまま何度も頷いた。

晴子が先にレジへ向かう。
桜木はこっそりとデザートコーナーへ行って、最後のプリンをカゴに入れた。
「お揃い……」
小さく呟いて、桜木がもう一つのレジに向かう。

二人は支払いを済ませ、コンビニを後にした。

「天気良いね、今日は」
空は透き通るようなインディゴブルーで、雲一つない。
冬が近い秋の空は、いつもより高く見えた。

「そういえば」
「はい?」
突然足を止めた晴子を、桜木が振り返る。

「桜木くんの私服、久しぶりに見たかも」
「そーすか?」

テストが近いため、珍しく部活がない日曜日だった。
今日は二人ともジーンズにTシャツ、晴子は上着を羽織っていた。

「うん。うらやましいな。桜木くん、足が長くて」
「そーすか?」
桜木は自分の足下を見た。
「うん」

今にも空に溶けてしまいそうな、インディゴブルーのジーンズ。
晴子はゆっくりと歩き出した。

「テスト勉強してる?」
「え? ……まあまあっス!」
「勉強合宿、楽しかったよね」
晴子は言いながら、心の中で『流川くんも来たし』と付け加えた。

「そーすね! 晴子さんのうどん、美味しかったです」
「本当?」
「はい」

やがて、晴子の家が見えて来た。
「じゃあ、桜木くん、また明日」
「はい!」
桜木が名残惜しそうに手を振る。

「そうだ」
晴子は桜木の広い背中を呼び止めた。

「桜木くん!」
「はい!」
桜木は背筋を伸ばして振り返る。

「これ」
「でもこれは晴子さんの……」
晴子は限定プリンを一つ、桜木に渡した。

「良いの。あ、桜木くん、プリン食べない?」
「いえ、大好きです!」
桜木がとっさにコンビニの袋を後ろに隠した。

「そっか、良かった」
「じゃあ……」
プリンが入っていないほうの袋から、桜木がチョコレートを取り出す。

「これどうぞ」
「え、でも……」
「物々交換です」
「そっか……」

二人はお互いにプリンとチョコレートを手にした。
晴子はダイエット中であることを言い出せず、
桜木はプリンを買って来たことを隠したままだった。

「じゃあ、またね」
「はい」

インディゴブルーの空だけが、それを知っていた。



――END――




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