「雲の通い路」


「何しとんねん、南」

休憩中。
岸本が開け放たれている体育館の扉のほうへ行くと、
南が外を見たままぼんやりとしていた。

「空、見てたんや」
南は上に視線を向けたまま、答える。

「空?」
岸本が扉から身を乗り出して、青い空を見上げた。
そこには空を二分するような飛行機雲が出ている。

「なんでやろな。空が懐かしい気がすんねん」
「しばらく見てへんかったからやろ」

二人は少しの間、空の下に佇んでいた。

「偉い回り道したなぁ」
南がぽつりと呟く。
飛行機雲はまっすぐに続いていた。


「無駄なモンなんか、一つもあらへん」


岸本はそう言って、右手のスポーツドリンクを飲み干した。
「まだまだ、先は長いんやで」
ニヤリと笑う岸本に、南は頷いた。

「……そやな」

ただ、ひたすら前に進むだけ。
南は心の中に飛行機雲を思い描いた。

まるでそれが永遠に続いて行く路であるかのように。



――END――




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