桜の花がもう散り始めた。
流川楓は、どうして自分がここを歩いているのか、と考えていた。
話は数分前に遡る。
「花咲く木蔭」
「晴子ちゃんは? 誰か知らない?」
マネージャーである彩子が、部員たちに訪ねた。
だが、誰も晴子の消息はわからない。
「今日、忙しいのよね。あ、流川、アンタちょっと探してきて」
流川はまさか自分が呼ばれているとは気づかずに、シュート練習をしているところだった。
「ちょっと、流川」
耳を疑いながらも、流川は手を止めて彩子のほうを見る。
「晴子ちゃん探してきて」
「なんでオレが」
「しょーがないでしょ、他にいないんだから。桜木花道は検査だし」
流川はぐるりと辺りを見回し、同級生の部員を探した。
「……」
周りは全て、上級生だった。
「何よ、その顔は。わかった。
じゃあ、アタシにジャンケンで勝ったら、許してあげる」
自分は何か悪いことをしたのだろうか、と流川は思った。
「最初はグー」
「ジャンケンポン!」
彩子はグーを出している。
そして、流川は……。
「いってらっしゃーい」
彩子が右手をひらひらさせながら言う。
残念ながら、流川はチョキを出していた。
「……」
流川は、なんでこんなところにいるんだ、と言う言葉を飲み込んだ。
校内中探し回ってたどり着いたのは、校庭にある大きな桜の木の下。
流川も時々、ここでお昼を食べたりする。
いわゆる穴場スポットである。
桜の花が満開だった。
だが、すでに何枚か花びらが落ちてきているようだ。
「どあほう」
その桜の木の下に、晴子は寝ていた。
ピンクの布で包まれたお弁当箱が横に置いてある。
静かな寝息をたてて、すやすやと眠る晴子。
流川はあくびをかみ殺して、桜を見上げた。
満開だ。
こんなにゆっくりと桜を見たのは何年ぶりだろう。
「……う〜ん……」
と、晴子が目をこすりながら体を起こした。
流川は桜の花から晴子へと視線を移す。
「あれ?」
寝ぼけ顔の晴子が、目をまん丸にした。
「る、流川くん!? あれ、これ、夢?」
頬を染めながら、辺りを見回す晴子。
流川は黙ってそんな晴子を見ていた。
「えーと……確かお昼をここで食べて……え!? もうこんな時間!?」
「呼びにきた」
流川がやっと口を挟んだ。
「え?」
「寝るな」
「……ごめんなさい!」
晴子が立ち上がり、制服についた花びらを払う。
もしこのまま寝ていたら、花に埋もれてしまうのではないだろうか。
そう思いながら、流川は黙って歩きだした。
晴子は静かに後ろを歩いている。
「流川くん」
背中に声をかけられて、流川は思わず立ち止まった。
「ありがとう」
「……」
何も言わないのも悪い気がして、流川は小さく頷いた。
何が悪いのかは、良くわからなかったけれど。
――END――
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