「!」
桜木花道がお気に入りの桜の木の下に来ると、そこには先客がいた。
「花咲く木蔭」
「は、晴子さん!」
なんと、その先客とは赤木晴子だった。
晴子は大きな桜の木の下で、気持ちよさそうに眠っている。
きれいに包まれたお弁当箱が、すぐそばに置かれていた。
花道はなんとなく辺りを見回して、誰もいないのを確認してしまう。
早くも散りだした桜の花びらが、晴子の制服についている。
今日は風が強いので、春とはいえ少し肌寒い。
花道は桜の花を見上げた。
満開の桜。
青い空。
花道は羽織っていた制服を脱いで、晴子にそっとかけた。
晴子は相変わらず、すやすやと寝息をたてている。
その寝顔を頭に焼き付けて、花道は部活へと向かった。
「桜木くん」
部活終了後。
花道が玄関から出ると、晴子が立っていた。
「は、晴子さん」
花道は驚いてそちらに駆け寄る。
「どうしたんすか」
「これ、ありがとう」
晴子が差し出したのは、先ほど花道がかけた制服だった。
「!」
「桜木くんが、かけてくれたんでしょう?」
花道は少し赤くなりながら、それを受け取る。
「つい、眠っちゃって。授業さぼっちゃった」
晴子は桜の木の下でお昼を食べた後、すぐに寝てしまったと言う。
「寒くなかった?」
晴子が花道に尋ねる。
「全然。寒くないっす」
花道は右手を横に振った。
「それなら良かった」
嬉しそうに笑う晴子。
花道は受け取った制服を羽織る。
ふんわりと桜の香りがして、花道は春がきたのだ、と思うのだった。
――END――
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