「終わりと始まり」
水戸は、屋上で流れて行く雲を見ていた。
入道雲はすっかり消え失せて、いわし雲が空を覆っている。
秋が来たのだ。
なぜか、四季の中で一番短い季節は夏のような気がする。
水戸はそう考えながら、夏休みのことを思い出していた。
いつの間にか過ぎてしまった。
そんな感じなのだ。
結局、パチンコは一度も勝てなかった。
毎日がバイトバイトで休んだ気がしない。
別に夏休みが特別ではない、と水戸は思う。
ただ、なんとなく寂しい気がするのは、張り詰めていた何かが緩んだからだ、と。
背中のケガでリハビリ中の桜木は、もちろん新学期には間に合わなかった。
桜木の試合がなければ、体育館に足を運ぶこともないし、練習につきあうこともない。
水戸は少しだけ口元を上げた。
そして、そろそろ数学の時間が終了するだろうと、立ち上がる。
と、入り口に誰かがいることに気がついた。
水戸は先生でないことを祈りながら、入り口とは反対の方向に隠れた。
少しきしんでいるドアが開く。
そこから出てきたのは……。
「ぬ? 誰かいんのか?」
少し髪が伸びた、赤頭。
「花道!?」
水戸は驚いて、桜木に駆け寄る。
「おお、洋平! 天才桜木、リハビリから奇跡の復活!」
「……大遅刻じゃねーか」
呆れて額に手をやり、水戸は頭を振った。
「い、いや、久しぶりに家でくつろいでたらよ、爆睡しちまって……」
桜木は下を向いて頭を掻いた。
「ま、いーか。それより、リハビリはどうだった?」
次の国語の授業もさぼることに決めて、二人はお気に入りの場所に座る。
空が一番広く見える場所だった。
「全然大したことねぇ」
桜木が顔の前で右手を横に振る。
「晴子ちゃんに聞いたぞ。リハビリ王だって」
「何!? 晴子さんがオレのことを」
嬉しそうににやけた表情で上を向く桜木。
「天才リハビリ王、桜木花道! なーっはっはっはっはっはっ」
水戸の隣で、桜木が豪快な笑い声をあげた。
「ははっ」
水戸はつられて笑いながら、空を見上げた。
きっと秋は夏よりも長い。
いわし雲が、それを証明するかのようにゆっくりと流れていった。
――END――
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