「あしたはきっと」


半年に一度、あるかないかの休日。
神は、なかなか布団から起き上がれずにいた。
すでに三度も目覚ましを止めている。

どんなに眠っても、体が重い。
昨日、いつもより一時間長く走ったのが原因だろう。
バスケを好きな自分と、休息を求める自分が、闘っていた。

四個目の目覚ましの音が、部屋中に響く。
神は仕方なく起き上がり、時間を確認した。
午前九時。

ここ一週間ほど、眠れぬ日々が続いていた。
欠かしたことがない、スリーポイントシュートの練習。
成功率は下がり気味だった。

神はのろのろと着替えをすませて、一階に降りた。
日曜日である今日、家族は全員どこかへ出かけている。
テーブルの上に、置き手紙と朝食が並べられていた。
高校に入ってからは休日返上で部活に明け暮れているため、家族との時間も取れていない。

覚めてしまったおかずを電子レンジに入れて、神は顔を洗った。
歯磨きをすませ、テーブルにつく。
頬杖をついて窓の外に目をやると、良く晴れた空が手招きしているように見えた。

神は溜め息とともに立ち上がり、とっくに温まっていたおかずを取り出す。
「いただきます」
呟いて、両手を合わせた。

一人で食べる朝食は、味気無い。
黙々と食べ続け、やがて茶碗が空っぽになった。
「ごちそうさまでした」
リビングに響く、神の声。

食器を丁寧に洗い、棚へ片付ける。
もう一度空を見てから、神は階段を昇った。

部屋に入ると、開け忘れたカーテンに手を伸ばす。
朝の陽射しが、突き刺さった。
電線にとまっている雀が、おいでと鳴いている。

神は苦笑しながら、スポーツバッグを抱えた。
午前中にシュート練習を終えれば、午後は休めるだろう。
家に鍵をかけて、神は歩き出した。

コンビニの前の自動販売機で、スポーツドリンクを買った。
信号を一つ越えると、いつものベンチが見える。
近所のバスケットゴールがある、公園。
幸い、先客はなかった。

ベンチにバッグを置いて、一呼吸する。
空気はすっかり夏で、春の面影はない。

「あ! 神さん」
バッグからバスケットボールを取り出したとき、後ろから声をかけられた。
「信長」
清田が同じくスポーツバッグを抱えて立っている。

「ちゅーす。偶然スね」
神の横に腰掛けて、清田が言う。
「晴れてたから」
空を見上げて、神が答えた。

「オレ、今日は絶対寝てやる、って思ってたんス」
「うん」
雀が、楽しそうに飛んで行った。

「オレ、ボール拾い手伝いますから」
勢い良く、清田がベンチから離れた。
「おう」
神も立ち上がる。

「シュート練習が終わったら、ランニング」
「……マジすか?」

きっと、まだまだやれる。
結局勝利したのは、バスケを好きな自分のほうだった。



――END――




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