「今日も暑いな」
準備運動をしていると、隣の花形が話しかけてきた。
空には入道雲が出ていて、ただでさえ暑い夏の気温を、
更に高めている気がした。
「RUN」
基礎体力の向上のため、毎日グラウンドを走るのがバスケ部の日課だった。
野球部はもう練習を始めていて、フェンス内にノックの音が響いている。
委員会で遅れてくるという藤真を待たずに、オレ達はランニングを始めた。
毎日セミの声を聞きながら走るのは、なかなか良いものだと思う。
もちろん、周を重ねるたびに、そんな気持ちも薄らいでいくのだが。
ちょうど、10周目で、藤真が合流した。
ノックの音が、心地良いリズムを刻んでいる。
それから更に10周走ったところで、あたりどころが悪かったのか、
白い野球ボールが先頭を走る藤真の目の前に落ちてきた。
「すいませーーん」
ボールを投げ返してくれ、という合図なのだろう、
一人の野球部員がグローブを高くかかげている。
藤真は立ち止まり、ボールを拾った。
「そういえば今日……インターハイの一回戦だな」
高野が後ろで言った。
「湘北の相手は豊玉らしい」
聞き覚えのある名前に、何人かが反応する。
「豊玉……!?」
投球体勢に入っていた藤真も、その言葉にこちらを見た。
放たれた野球ボールは、カーブを描いて、先ほどの野球部員のグローブに収まる。
「夏は終わったんだ」
一度空を見上げてから、藤真が口を開く。
「翔陽には冬の選抜が全てだ。関係ない」
そう言い残して、再び走り出した。
「なんか、ペース上がってないか?」
しばらくして花形が小さく呟いたとき、一度は追いついた藤真との距離は、
更に遠くなっていた。
「本当、負けず嫌いだな」
ため息とともに、花形が言う。
「よし、あと10周! 気合い入れていくぞ!」
花形のかけ声に、野球部員全員が一瞬ノックの手を止めた。
「おお!」
オレはそう答えて、周回のカウントをゼロに戻した。
「お?」
前を走っていた藤真が、少しだけ振り返る。
強い風が吹く。
まるで、オレ達の背中を押すかのように。
――END――
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