「ある朝〜白い空〜」
朝。
流川楓は、凍りつくような寒さに、一度玄関に戻ってマフラーを巻いた。
飼い猫の頭をひと撫でして、再び玄関を出る。
吐く息は白い。
温暖化が進んでいるせいか、
秋から冬への移り変わりも緩やかになってきている。
それでも、季節は変わるのだ。
自転車の鍵を外して、サドルに腰掛ける。
ハンドルが冷たい。
手袋を取りに行くか迷ったが、そのまま自転車をこぎだした。
イヤホンから軽快なリズムが流れてくる。
登校時は音楽を聴くのが日課になっていた。
テンポ良く、走る。
横切る風で、耳が冷たい。
いつもは眠気に襲われる交差点に差し掛かる。
彼は眠ることがバスケットボールの次に好きなのだが、
睡魔も寒さには勝てないようだ。
次の角を曲がれば、学校。
と、上から何かが落ちて来た。
彼は立ち止まって、空を見上げる。
雨だと思ったそれは、白い雪だった。
はらはらと舞い降りる。
いつだったか、めったに積もらないこの街に、大雪が降ったことがあった。
彼は飼い猫が嬉しそうに庭で走り回るのを見ていた。
てっきり、猫はこたつで丸くなるものだと思っていたのに。
そして、小さい雪だるまを作ったような気がする。
一週間ほど、冷蔵庫に住んでいた。
あの雪だるまはどうしただろう。
考えているうちに、学校に到着してしまった。
彼は自転車置き場に愛車を入れて、再び空を見上げた。
まだ雪が舞っている。
帰りは少しでも積もっていると良い。
自分が自転車通学だということも、
部活動で遅い時間になるということも忘れ、
彼はそう願うのだった。
――END――
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