「口笛」


口笛を吹く。

それはほとんどくせのようなもので、流川楓は自転車をこぎながら天を仰いだ。
青い空は、今日も高い。

数日前、新人マネージャーから聞いた、日本のバンドの曲。
サビのラインが、きれいに空へ消えて行く。

彼は、時々街で耳に入る日本の音楽が苦手だった。
自分でも、理由は良くわからない。

それは、アメリカと日本のバスケットボールが違うのと、同じ理由だろうか。


一度も借りたことのなかったその曲を聴いてみたくなったのは、偶然だった。
おなじみのレンタルショップで貯めていたポイントが、ちょうど期限切れになりそうだったから。
たまたま目につく場所に、オススメ曲として置かれていたから。
新人マネージャーに良く似た店員がいたから。

重厚なのに軽快なメロディは、彼の心を捕らえた。
今では、カセットの大半をそのバンドの曲が占めている。
安西先生に誓った日本一が、いつの間にか彼の目標になったように。


信号で、一度立ち止まる。

商店街のスピーカーから、そのバンドの曲が流れていた。
彼はそのメロディに合わせて、口笛を吹いた。


今日は部内で紅白試合がある。

リハビリから帰ったばかりの桜木花道。
キャプテンの宮城リョータ。
完璧に近付いている三井寿。

日本には、まだまだ彼の知らないプレーヤーがいるのだろう。
信号が青に変わり、彼は再び走り出した。


今度、マネージャーに聞いてみようか。
他にもオススメのバンドがいるのかどうかを。
まだ知らない日本の曲を、知ることができるかもしれないから。

彼は口笛を吹きながら、そんなことを思った。






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