「みっちゃん。すげーのがいるぜ」
最初に気がついたのは、徳男だった。
パーマのかかった茶髪に、ピアス。
新入生の中でも、明らかに浮いている。
「面倒くせぇ」
三井はだるそうに呟いた。
毎日が、なんとなく過ぎて行く。
いつの間にか、二年になっていた。
「あいつ、バスケ部に入ったらしいぜ」
徳男がそう聞き付けてきたのは、入学式から一か月が過ぎた頃だった。
三井はぎくりと肩を動かした。
「バスケ部?」
「ああ。期待の新人とか言われてるってよ」
三井は誰にも悟られないように、拳を握り締めた。
右膝が、痛む。
関係ない。
そう思おうとした。
「よう。期待の新人」
その日の昼休み。
たまたま行った屋上に、宮城がいた。
「誰だよ、アンタ」
三井はゆっくりと宮城に近付く。
宮城は立ち上がって、三井を睨み付けた。
徳男たちが後ろでニヤニヤと笑っている。
「小さいな、オマエ」
「それでバスケ部か?」
宮城は表情を変えずに唇を結んだ。
「オマエの居場所じゃねぇ」
三井の声が、屋上に響いた。
「はぁ? ここ屋上でしょ。誰のものでもねーじゃん」
宮城が片眉を上げる。
「どけろよ」
三井は顎で入口を指した。
「……いやだと言ったら?」
「どけろ」
右膝が、痛む。
「いやだね」
宮城が言い終わる前に、徳男が殴りかかった。
が、宮城はそれをひらりとかわして飛び上がる。
「てめぇ……!」
徳男たちが逃がせまいとして、宮城を追いかけた。
「逃げるのか」
三井はその後ろで更に声をかけた。
右膝が、痛む。
「だせーな、あんたら。大勢で寄ってたかって。恥ずかしくねーの?」
宮城の挑発的な目が、三井に思い出を蘇らせた。
スリーポイントシュート。
MVP。
バスケットボール。
宮城の台詞はもう、三井には届いていなかった。
「許さねぇ……」
宮城は、追いついた徳男たちを次々にかわして、屋上から消えていた。
「待て、徳男」
三井は更に走りだそうとする三人を呼び止める。
「でも、みっちゃん……」
「いいんだよ」
スリーポイントシュート。
MVP。
バスケットボール。
「絶対に許さねぇ」
三井は痛む右膝を押さえて、笑った。
「二度とバスケができねぇようにしてやる」
スリーポイントシュート。
MVP。
バスケットボール。
三井がバスケットボールから離れて、一年。
それは、忘れるにはあまりに短すぎる時間だった。
――END――
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