時刻は午前十一時。

三井は落ち葉舞う街路樹をゆっくりと歩いていた。
遅刻であることはわかっているのだが、足が進まない。
四時間目の体育の授業には、出席するつもりだった。

体育以外の科目は、どれも眠ってしまう。
元々、勉強になど興味はなかった。


そうだ。


三井は一瞬頭をかすめた言葉を振り払った。

今は何も考えたくない。


あれから数ヶ月が過ぎても、左膝の痛みは治らない。
医者には精神的なものが原因だと言われたのだった。
また春が来たら、もっと痛むかもしれない。

三井が肩まで伸びた髪をかき上げたとき、
目の端に映る公園に見慣れないものを見つけた。
青いビニールシートがかけられている。
見覚えのあるそれは、三井の鼓動を早めた。


なぜ、今頃。


顔をそむけるように、空を見上げた。
いわし雲が空一面に広がり、その動きを止めている。
雲は流れて行くものだろう、と三井は思う。

痛む左足をひきずって、再び歩き出した。
いつの間にか、腕時計はひとりでに時を進めている。


三井は自分が一人だけ置き去りにされているような気がして、
少しだけその歩みを速めた。







「これ、なんつーんだっけ?」
できたばかりのバスケットゴールの下に、二人の男が立っている。
両方共、灰色の作業着を着ていた。
一人が青いビニールシートを片手に持っている。

「バスケットボールだよ。バスケットボール」
「この辺の子供、やんのかねぇ」
尋ねられた男のほうが両手を上に伸ばし、ボールを放つ仕草をした。

「武石中ってあるだろ? あそこにすごいのがいたんだよ」
「すごいの?」
「おう。これも武石中のバスケ部からの催促だからな」
言いながら、男は自分の仕事の成果をうっとりと眺めた。

「そのすごいのはどうしたわけ?」
「さあ。でもどっかでバスケやってるさ」
「なんでわかんの?」

「バスケ経験者はわかるんだよ。そういうものなんだ」

男が空を見上げると、少し風が出てきたのか、雲がゆっくりと動き出した。






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