走ってた。

いつも。

振り返る余裕なんて一度もなかった。







「何見てんだ? 三井。行くぞ」

視線の先にあるもの。
小さな公園の一角。
空に映えるリングとネット。

三井は、無理矢理視線を前方に向けた。
気がつくと、一緒に歩いていた仲間は数十メートル先で、こちらを見ている。

「……おう」

左膝の古傷が痛んだ。
三井は、それを振り払うように、一歩を踏み出す。

少し伸びた髪が揺れた。

夕陽がどんなに彼の影を長くしても、
公園には届かない。

一度も振り返らないその背中は、
いつしか見えなくなった。







走ってた。

いつも。

振り返る理由なんて一つもなかった。






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