走ってた。
いつも。
振り返る余裕なんて一度もなかった。
*
「何見てんだ? 三井。行くぞ」
視線の先にあるもの。
小さな公園の一角。
空に映えるリングとネット。
三井は、無理矢理視線を前方に向けた。
気がつくと、一緒に歩いていた仲間は数十メートル先で、こちらを見ている。
「……おう」
左膝の古傷が痛んだ。
三井は、それを振り払うように、一歩を踏み出す。
少し伸びた髪が揺れた。
夕陽がどんなに彼の影を長くしても、
公園には届かない。
一度も振り返らないその背中は、
いつしか見えなくなった。
*
走ってた。
いつも。
振り返る理由なんて一つもなかった。
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